鯛の鯛

夜明け前、新聞配達の人と、これから釣りに出掛ける近所の人の話し声が聞こえてきた。
「さぶいね」
「おいべっさんだもんな」
「そんな季節になったんだね」
「これからが本番だぞ」
言うまでもなく「さぶい」は「寒い」の意味だ。寒さの度合いによって、「さぁ~ぶい」と伸ばす。

19日の午後、本町のおいべっさんに出掛けた。縁起物の店は商売を始めていたが、お好み焼きなどの店は夕方からの客に備えて仕込み中だった。それでも、境内には沢山の人で賑わっていた。夕方から夜には、お参りの人の行列ができる。

美濃輪稲荷赤鳥居前「魚初」の店先に並べられた焼鯛。焼きたてを、そのまま食べても、もちろん美味しい。今年も、2尾買い求め、1尾は鯛飯に、残りはマリネにした。一晩寝かせると、これも美味しい。
恵比寿さんといえば鯛。だから、恵比須講には縁起物の鯛を食べる。美濃輪界隈の魚屋の店先では、鯛が並べられる。うねるように串を刺した鯛の塩焼きである。
ガーゼにくるんで、そのまま炊き込む鯛飯が好きだ。ただ普通に炊くだけで、鯛のうま味と塩味が、ご飯に染み込む絶品だ。我が家では、「鯛飯」が縁起物である。
炊きあがり、しばらく蒸らしてからガーゼごと鯛を取りだし、ほぐしながら骨を取り除く。魚屋の若主人に教えてもらったやり方だ。骨を取りながら、「鯛の鯛」を探す。鯛の形をした小さな骨だ。必ず入っているはずなのだが昨年は、見つからなかった。ほぐすときに割れてしまったのかもしれない。
今年は「鯛の鯛」があった。これからの一年が穏やかに過ごせるような気がした。縁起は天から降ってくるものではなく、自分で担ぐものかもしれない。
「鯛の鯛」も、若主人に教えてもらった。店先での会話は、伝統文化の伝達という役目も担っている。大切にしたいと思う。

「鯛の鯛」は「鯛中鯛」(たいのなかのたい)とも呼ぶ。